ガラテヤ書1章

コリント人への手紙と同様にガラテヤ人への手紙も論争的な性質を持っている。コリント人への手紙では、経歴や弁舌の巧みさ、さらには霊的経験などを誇る、パフォーマンス指向的な偽教師が問題とされていた。しかし、ガラテヤ人への手紙では、いささか性質の異なる敵対者が取り上げられている。彼らもまた偽教師として警戒すべきことが語られていく。

そこでパウロは、いきなり本題に入る前に、自分自身の使徒職の性質について語っている。それは、いかなる人間的な権威にもよらないものであり、ただ神によるものである、という。パウロは、イエスが直接任命した12使徒たちのように、地上のイエスと親しい時を過ごしたことはなかったが、復活のイエスから直接任命された使徒であった、という(使徒9:4-6)。パウロは、そのキリストに頌栄をささげて挨拶を終える(5節)。

さて本題であるが、ガラテヤの教会で問題となっていたのは、コリントの教会とは違って、パウロの使徒職の真偽性ではなかった。ガラテヤ人への手紙では、パウロ本人よりも、このパウロがもたらした福音そのものが脅かされていた。パウロがガラテヤの地を去ってから偽教師と呼ばれる人たちが入り込んで、教会をかき乱していたが、彼らは、罪の赦しを得るためには、イエスの十字架の死を信じるだけでは足りず、ユダヤ人の儀式である割礼や、モーセの律法を守らなくてはいけないと教えていた。彼らは、救いの道は唯一つ、キリストの十字架によると語るパウロの福音に反対していたのである。パウロの語気は荒い。福音を曲げる者、その者は神の審判を受けるのだ、たとえ牧師、教授、主教、み使いという肩書があったとしても、(8節)と言う。

この問題を扱うにあたり、パウロは11節より自分がどのように福音を理解し、それを宣伝するようになったのかを語っている。というのも、それによってパウロが受けた福音は人間によるものではない、ただイエス・キリストの啓示によって受けたことがわかるはずだ、というわけである。

啓示は、ギリシア語でアポカリュプシス、人々に隠されていた事柄が、神によって明らかに示されることを意味する。また「イエス・キリストの啓示」ということばの「の」は、専門的には、「キリストから(受けた)啓示」とも、「神から受けた(キリストの事実)についての啓示」といずれにも理解される。どちらに理解するにしても、パウロの強調はこの後のこと「啓示によって受けた」にある。つまり、パウロは、一瞬にして神に盲目にされ、その場で、イエス・キリストが敗北者ではなく、勝利者であること、狂信的信仰者ではなく、まさに神ご自身であることを、神の側から示されたのである。パウロは自らに持たされた経験が神の恵み深い主権的な行為であったことを振り返っている。実に、これがなければパウロの人生も180度方向転換することはありえなかったのである。

パウロの回心は、一般に無神論者の日本人が、有神論者になる回心とは違う。また単純にユダヤ教からキリスト教に回心したものでもない。パウロはもともと熱心なパリサイ派のユダヤ人であり、神の存在を認め、礼拝し、忠実に仕える者であった。そして自分たちのユダヤ教の中に、にわかに起こってきたイエスをメシヤと認めるナザレ派の動きを忌まわしい異端であり撲滅すべき存在と考えていた。そして彼はその熱心さのゆえに、狂ったようにキリスト教徒を脅かし抹殺しようとした。だが、彼は一瞬にして天来の恵みによって捕らえられ、キリストをメシヤと認めるのである。そしてイエスに対する従順なしもべになった。

それから3年間彼は何ら、この道についての教示を受けることはなかった。むしろアラビアで三年間過ごしたという。パウロがこの時アラビアに持って行ったものは、旧約聖書の知識、キリスト者たちがイエス・キリストについて語っていたことについての記憶、そしてダマスコでの個人的な救いの経験の三つである。おそらくパウロは、これらすべてを関連付け、理解し、考察する時を持ったのだろう。そしてダマスコに戻り、エルサレムに向かったパウロは、キリスト者として迎えられるようになる。つまり、パウロは、直接イエスから使徒としての召しを受けた後エルサレム会議に至るまで、自分の福音が、エルサレムの権威にも、人間的な教授の機会にも全く無関係であったと言いたいのだ。実際パウロは「以前は自分たちを迫害した者が、その滅ぼそうとした信仰を述べ伝えている」と知られる者に過ぎなかった者なのである。

それなのに、その天来の福音が今ここで問題にされている。彼の語る福音は、再び3、4節に戻るのであるが、「私たちの罪を赦し、私たちを今の悪の世界から救い出す、キリストの十字架にある恵み」である。この福音に何一つ付け加えてはならない。これが神の祝福のすべてである、というものだ。自分自身が受けた福音について、改めて見直すつもりで、このガラテヤ書を読み進めていきたい。

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