創世記50章

ヨセフの父ヤコブが死んだ。ヨセフはヤコブをミイラにしている。この際に、ミイラ作りの専門家を呼ばずに医者を呼んだのは、ミイラ化にともなう宗教的・呪術的儀式を避けるためであったと考えられている。ヨセフの立場にあってはエジプトの慣例を無視することは難しかったのかもしれないが、死者崇拝に結びつくミイラ化の儀式の実用的な部分のみを受け入れている所が、ヨセフの信仰を案に物語っている所なのでもあろう。
10節、ヨルダンの向こうの地、とある。具体的に「ゴレン・ハ・アダデ」という場所がどこかはわからない。エジプトからカナンに至る通常のルートは、海沿いの道であるが、どうやら死海を迂回して北東からカナンに至ったようである。その理由はよくわからないが、葬儀それ自体が、やがて起こる出エジプトの予行演習のようでもあった。その地は「アベル・ミツライム」と呼ばれた。そこには言葉遊びがある。アベルには、嘆く、という意味と同時に、水流もしくは草原を意味する。そしてミツライムはエジプトを意味する。約束の地カナンは、エジプトの水流、確かに、ヤコブの子孫を通して全地は祝されることの象徴であろう。ともあれヤコブはこうして約束の地に葬られた。
さてヨセフの兄弟たちが、策を練っている。ヨセフの仕返しを恐れたのである。しかし、ヨセフは語った。「恐れることはありません。あなたがたは私に悪を図りましたが、神はそれをよいことのための計らいとなさいました」(20節)。ヨセフの心の傷が完全に癒されている。ヨセフにもはや復讐心はない。問題は悪を図った兄たちが、自分たちの過去に責められているのである。そして、自分たちを守ろうと立ち回っている。罪人の心理がよく現わされているところである。本来は、自分たちの問題なのに、相手に問題があるかのように理解する。しかし変えられた罪人はそうではない。人の悪意を見たとしても、その行いを正すのは神であると神に委ねることができる(19節、ローマ12:19)。またその悪意の中に神の摂理を見出すことができる(20節、45:5)。すべては神のみこころの中で生じていることであり、それらすべてを神はよいことのための計らいとされる、と信じていくことができる。だから、悪事を受け、不法にねじ伏せられるようなことがあっても、静かに物事の成り行きを見定めていくことができる。物事の動きに動じない、泰然自若とした歩みは、神のご配慮と悪を善に変える神の助けを覚えればこそである。そして、悪に対して赦しと愛情をもって報いることができるのである(21節、ルカ6:27)。実際「私は、あなたがたも、あなた方の子どもたちも養いましょう」と語るヨセフには、兄弟たちに対する個人的な愛が溢れていた。
創世記を完読した。創世記は旧約聖書の本質的なメッセージを包含している。それは、旧約の預言者たちをやがて突き動かしていくことばとなる。アブラハム、イサク、ヤコブの神のもとに、確かなる祝福と希望がある。
アブラハム以降、イサク、ヤコブ、そしてヨセフと読みとおしながら、それぞれ三様の人生を歩まされていることを思う。
 イサクにとって父アブラハムの存在は大きい。素晴らしい信仰の父にあやかって、素直にその祝福を受けながら生きた人物である。イエスの十字架にあやかって祝福を受ける私たちも同じだろう。
 ヤコブは、遅い自立を強いられた人物である。家族間のトラブルで、家を追い出されてしまい、大変な人生を歩まされてしまう。世間知らずの故に、おじのラバンにいいように利用される人生を生きていく。しかも狭量な人物である。だが神はヤコブをそのような人間では終わらせなかった。神ご自身のご計画の中に歩ませている。ヨセフは、転落に継ぐ転落の後、その心の傷を癒される人生へと導かれている。ヤコブもヨセフも全く想像もしない人生を走り抜けたと言えるのではないか。
ともあれ三人の人生は全く異なっていながら、それぞれ神の最善に導かれた人生である。人生の一部を切り取れば、しばしばそれは最善とは思われない出来事もあったのだが、総じて、最善と締めくくられるようなものであった。神に導かれるままに、また与えられたものを素直に喜んで生きていく、さらに神が与えられる人生の多様さを認め、自分の人生の計り知れぬ可能性と祝福を信じていくところに、私たちの幸せがある。しかし、私たちのなすことは逆で、自分の考えられる最善に自分たちの幸せがあると思うものだ。だから自分の考えから物事がずれて行くと、幸せを感じることができないし、神にも不信感を抱いてしまう。たとえ人に悪をはかられる人生であれ、神はそのはからいをよいことのための計らいと変え、私たちへの最善を完成させてくださる、そんな確信を持って歩ませていただこう。いつでも希望を抱き、人を恐れず、神を恐れて歩みたいものだ。

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