創世記30章

ヤコブの人生はある意味で散々であった。二人の妻は、自分たちの女奴隷をも巻き込んで、女の幸せをかけて相争うのである。気が滅入るような家族間の争いの中で、ヤコブは、そもそもの原因はラバンにある、と忌々しく思うこともあっただろう。最初から自分が望んだラケルだけを妻にしてもらえれば、こんなことにはならなかった、と。
しかしながら、29:31以降、30章に続く物語の焦点は、二人の妻、レアとラケルが、この事態をどのように感じ、どのように解決しようとしたかに当てられている。いみじくもヤコブは、「私が神に代わることができようか」(2節)とすべての解決は主にあることを語っているが、問題は、二人のどちらも神に解決を求めず、ただ、自分たちの人間的な思いや努力を優先して解決しようとしたことにある。その姿勢は、彼らの義祖母サラに通じるものがある。ヤコブ家にとっては、信仰によって子を得たという霊的遺産は、どうも受け継がれていなかった部分がある。ともあれ、彼らは、人間の可能性の中で物事を考え行動した。しかし実際のところ、嫌われていたレアは、特別に神の恵みを受けたが(29:31)、ラケルは、神に敵視され、無視しされていたわけではない(22節)。常に神は、私たちに対して善であり、よきことをしてくださるお方である。大切なのは、神の時を待つことである。ただ、そのように神を信頼できるまでには、霊的な訓練と成熟が必要なのであり、まさにこのような異常事態に思える状況であっても、それが神の容認しておられる所で起こっていることであり、神が霊的な訓練の機会として設けられた時なのだ、と考えるべきなのだろう。私たちの日常性の出来事が皆、霊的成熟に向かうための訓練そのものである。
「恋なすび」は妊娠促進の薬効があると信じられた薬用植物である。ラケルは神よりもその効果に頼ろうとした。しかし、結果は逆であり、恋なすびを手放したレアがもう一人の子を得ることになる。神は恵み豊かで、私たちによいものを拒まれない、といついかなる時も、日常の困難にあって、まず神により頼んでいくことが、最善の解決策であることを学ばなくてはならない。サムエルの母、ハンナが同じような試練でどのように対処したのかを思い起こしたい。
家族の人間関係の中に試練が生じるのは辛いことである。家族は逃れることができない、生涯付きまとう関係だからだ。ヤコブは、妻たちとの関係に悩むのみならず、義父ラバンとの関係に悩んで行く。ヤコブを騙し、ヤコブを利用しつくそうとするラバン。そんなラバンに対してヤコブが考え出した脱出の道は、「自分自身のために自分だけの群れをつくることであった」ただそんなヤコブの心を見抜けないほど、ラバンも間抜けではなかった。彼は、ヤコブの提案に対して、そこにごまかしが起こらないように、自分の息子たちにヤコブの群れの管理を任せている。ヤコブは賢く提案したものの、明らかに不利な立場に置かれてしまっている。しかし事態はそれでも、ヤコブの望むとおりによい方向へと動いて行った。それはヤコブが当時信じられていた方法、つまり選択受精という方法を用いて6年間で成功したようでもあるが、実際には、後にヤコブ自身が認めるように(31:9)神がこれを祝されたためである。成功のために神が働いてくださった部分があるために、ヤコブは富み、多くの群れと、男女の奴隷を持つようになったのである。全てよき祝福は上から来るのである。
私たちは真実ではなくとも、神は真実である。永遠に抜け道のない袋小路に迷い込んだと思えるような、まさに望み得ないところでなおも神の善であることを信じていく、それが私たちに期待されていることである。だから、常識的に物事を考え、なせることは何でもなしたらよいだろう。しかし、常識的に行動する中で、常識を超えた神のみ業がなされる可能性をいつも考えておくべきである。というのも、八方塞がりの時に、本当に必要なのは、私たちの思いを超えた神の助けそのものであり、それがある、と期待し続けることだからだ。
私たちは、単なる人ではなく、神の子である。神は試練を通して、子である私たちをご自身に近づけ、ご自身のみこころに導いてくださっている。神の子として成長するために(2テモテ3:17)、神がしばし試練の時を許されることがある。多くの場合、人は、苦労することは悪いことだし、不幸なことだと考える。けれども、苦労があることと幸せであることは別次元のことである。だから苦労があっても本当は幸せだ、ということがある。苦労の中に、人は一人ではなく、神が共におられ、神の私たちの思いを超えた働きと助けがあることを悟るからである。ここがわかれば、人生はもっと楽しくなるものなのだ。

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