創世記42章

 パレスチナの飢饉は、神の御計画であった。一見、一個人の人間とはなんら関係がなさそうに思える自然現象や社会変動が、極めて個人的な生活に関わる、神の計画として語られる。スケールの大きな話であるが、神がそのように人の人生に関わってくださるお方であることを覚える時に、一種の安堵がある。というのも、今日家族の複雑な問題は、家族の誰かが変われば解決するという問題ではない。家族の問題解決のために問題を引き起こす犯人捜しが行われ、犯人が矯正されていくようなやり方で物事が解決することはまずない。というのも家族の問題は、家族内だけの問題によるのではないからだ。それは複雑に社会の問題とも絡み合っている。そういう意味で、社会が動かされることによって、家族が変わらざるを得ないということがあったりするのだ。
エジプトの飢饉はパレスチナをも巻き込み、穀物不足を生み出し、ヤコブの家族がヨセフに会わざるを得ない状況を作り出した。しかし、すでに約20年の歳月が流れていたことだろう。ヨセフは、もはや父にとっては死んだ過去の人であり、兄弟たちにとっても実質的には遠い昔に死んでしまったと思われる存在になっていた。そんなヨセフが兄弟たちと再会する。ヨセフは、ひれ伏す兄弟たちを見下ろしながら、かつての夢を思い出したことであろう(37:6-11)。兄弟たちはヨセフの夢をあざ笑い、潰そうとしたが、それが神から出たものであったが故に、夢は予告されたとおりのものとなった。
ヨセフは、兄弟たちが気づかぬことをいいことに、荒々しく振舞っている。スパイ扱いすらした。それは、ヨセフの復讐心もあったからだろう。しかしヨセフは神の人である。ヨセフは、かつての夢を思い起こしながら、単に家族の拝礼を受けること以上に、そこに家族がもう一度一つにされるという神の回復のメッセージを受け止めるところもあったのだろう。ヨセフの夢は、アブラハムが神に「地上のすべての民族はあなたによって祝福される」と言われたことに通じるのである。ヨセフによって家族が回復され一つとされ、祝福される、ということである。日本には、家族に問題を引き起こす子どもを「宝息子」と呼ぶ習慣があったという。問題児ではなく、宝息子、家族を一つにし、家族にさらによい絆をもたらす息子というわけである。問題を起こす子であれ、そうでない子であれ、私たちから祝福が及ぶというビジョンを持つことは大切である。実に、私たちはその夢を受け継ぐ者である。私たちによって家族が、近隣が、職場が回復され祝福を受けていくことを覚えて歩ませていただきたいところだろう。
ヨセフが彼らのことばを理解しているとも知らず、兄弟たちは、昔の事件について語り始める。事の真相が明らかにされた(22節)。皆が敵だったのではない。少なくとも長子のルベンは彼を守ろうとしていた。しかしできなかったという。ヨセフは心を動かされたが、そこですぐに心を開いて、「私はヨセフです」と告白するまでには至らなかった。
むしろ暴君のように、シメオンを人質にし、弟のベニヤミンを連れてくるように言い渡し、兄弟をカナンに帰すのである。ヨセフの複雑な思いがそうさせたのかもしれない。ヨセフは長子をマナセと名づけた。マナセが誕生したことで、「神がすべての労苦と父の全家とを忘れさせた」からである。兄弟たちから受けた苦しみ、そしてエジプトでの濡れ衣や投獄など、様々な苦しみを忘れさせてくださったということだ。また、後ろ向きに家族を回顧して生きていたその姿勢に踏ん切りがついたということだ。しかし、実際には、そう思っていただけで、心の奥底にはまだ苦しみが火種のように残っていたのである。一方、ヨセフは、この機会に夢で見たように、もう一度家族と一つになろうという思いを抱いたのだろう。
ヨセフは、エジプトの大臣になり、ゆとりを持ち、いつでも自分の家に帰ろうと思えば帰れたはずである。そうしなかったのは、ヨセフが、兄弟たちを赦せなかったこともあろう。そのような事件を引き起こした父の教育を苦々しく思い、父をも赦せないでいたためかもしれない。家族との関係が明らかになり、その評価次第ではせっかく手に入れた幸せが失われる心配もあったのかもしれない。理由が何であるにせよ、これまでのヨセフは動かずにいた。そんなヨセフが動き出した。いや神が力強い御手をもってヨセフを動かしていく。私たちの思いを超えて、私たちの行動を導く、そんな神がいる。私たちが閉じこもろうものならば、そこから引きずり出す神がいる。奴隷から囚人へ、そして大臣へ、さらに一家族の一兄弟へ、いったい誰がこんなヨセフの人生を予測できたことであろうか。神が一人ひとりに持っておられる計画も実は同じである。今日も神の深い計画と導きを覚えて歩ませていただこう。

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