出エジプト記22章

1.盗みに関する刑事法(22:1-17)
すべてをきちんと現代日本の法体系に照らして対比分類できるわけではないのだが、22章の初めは、21章に続く刑法的な規定で、窃盗罪(22:1-5)、放火罪(22:6)そして、金銭・物品を預かった場合の注意義務の定め(横領罪も含む)(22:7-15)になる。 
またここには、盗人が押し入った際に盗人が打たれて死んでも、打った者の責任は問わない「正当防衛」の思想が(2節)、しかし日中や盗んだものを何も持っていない状況では、打った者の責任を問う「過剰防衛」の思想(3節)が明確にされている。つまり違法性を否定したり正当防衛、緊急避難を認めたりする専門的な言い方をすれば「違法性阻却事由」と呼ばれる考え方が示されている。
横領罪については、二倍のものを償って返すことになっているが、新約聖書においてザアカイは、四倍のものを償って返している。彼自身の悔い改めの方法には、それなりの根拠があったということだ。
13節、「野獣にかみ裂かれたのであれば、証拠としてそれを差し出さなければならない」。思い出すのは、ヤコブの不満である(創世記31:39)。彼は律法通りには扱われなかったのである。そしてヨセフの着衣を血に浸しヤコブへ見せた兄たちの行為も思い出される。彼らは、「償いをする必要がない」ことをそれで示した。さすがに父のヤコブは、彼らに償いをこそ求めなかったが、
彼らは後に、「血の報い」を意識している(創世記44:22)。人間の良心は、もう一つの律法である。すべて人は、神の前にあってその行為の責任を問われるのであり、決して人にわからなければよいというものではない。
22:16以降は、イスラエルの文化・価値を背景とする道徳法、宗教法になっている。16,17節は処女に関する規定であり、婚約していない処女をいざなって犯した場合、その人は、処女の人生に対して責任を負わなくてはならない、という。性的関係は人間の最も深い部分をさらけ出す行為であり、人間の人生にそれだけ深くかかわりを持つということである。  
2.宗教上および道義上の違反(22:18-27)
22章後半は、いくつかの法規が雑多に未整理にまとめられている印象がある。たとえば、宗教法として、呪術の罪(22:18)、偶像礼拝の罪(22:20)、献げ物の手続き上の罪(22:29-30)が規定され、道徳法として、社会的弱者への配慮(22:21-24、23:9)、為政者に対する態度(22:28)、聖なる民であるという意識からの食事に関する規定(22:31)が綴られている。また、22:25-27は、民法の賃貸借契約に関する定めにあたるのだろう。
サウルが霊媒や口寄せを断ち切ったのは、この律法によるものなのだろう(1サムエル28:9)。神の民には、神が定めた導きの方法があった(申命記18:9-15)。獣姦はカナン人にとって宗教的な意味を持ち、それは神のお定めになった自然の秩序を捻じ曲げることであった。ただこの規則により、違反者をどう取り扱うについては、今日と昔は相当異なっている。
21節からは社会的弱者への配慮であるが、その文脈の流れで、貧しい者に対する貸し借りの問題が論じられる。やもめやみなしごなど「恵まれない人々」に対してイスラエルはエジプトの経験を踏まえて面倒を見るように語られる。神は彼らとともにあるからだ。古代ハムラビ法典では、商業上の金融で利息を取ることを認めており、その利息の額は33%であったという。イエスの時代にも銀行があり、一般的には金利が認められていた。しかし、旧約聖書の律法では、貧しい者からは利息を取ってはいけないと繰り返し命じられている。実際、農耕社会では、法外な利息は膨大な負担となるのみならず、金を貸す行為は、利潤を追求する商売を成り立たせるためではなく、貧しい者を助ける愛の行為としてなされるものだからだろう。隣人の難局に付け込んで金儲けをするのは道義に反する。貧しい者が、金を貸してもらうことで、返って苦しむのであれば、「彼がわたしに向かって叫ぶとき、わたしはそれを聞き入れる。わたしは情け深いからである」(27節)と神の裁きが語られる。
こうして22章を読むと、現代日本の法規に通じる内容があることも理解されるが、その行間に、聖なる神の民として、あるいは愛の神の民として生きる、という基本姿勢があることを思わされる。私たちが聖書のみ言葉を守るのは、私たちの信じる神が聖であり、愛の方だからであり、聖さと愛が、人間にとっては根本的な価値であると信じるが故なのだろう。初めて教会に来た人が、神は人間をご自身に似せてお造りになられた、神は聖であるから、私たちも聖でなければならない、ということばにいたく感動して信仰を持ったことがあるが、やはり私たちがいかなる者なのか、という認識が私たちの生涯の歩みの性質を定める。神にある者としての自覚を今日も失わずに歩ませていただきたいものである。

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