使徒の働き6章

教会は生き物であるから、問題も生じるものだろう。本当の問題は、それを解決する力、さらに成長する力があるかどうかである。初代教会に生じた問題は、他国から帰化しギリシア語を使うユダヤ人(ヘレニスト)と、地元のパレスチナで育ちアラム語を話すユダヤ人(ヘブル人)との衝突である。彼らの緊張関係は、元来存在していたとされるが、それが日々の配給について不公平な取り扱いがあったことを元にして高まって行った。おそらく、慈善配給がヘブル人たちの手で行われていたことが、ヘブル人優位の配給と取られたのであろう。使徒たちは、知恵をもってこの問題に対処していく。

教会に問題が生じたら、それは教会の在り方を見直す機会であると心得たい。教会を建徳的にさらに成長させていく好機である。そこで使徒たちは、自分たちが、慈善配給の仕事に携わって忙しくするあまり、本業である祈りとみことばの奉仕という役割を十分に果たしていない現状を確認した。そこで彼らは執事を選出し、彼らに教会の運営面を任せる決議をしている。問題は解決した。教会に問題が起こった時は、私たちの愛の深さが試される時である。本当に神様の愛がわかり、神の愛に生きている人は、問題が起こっても退いたりはしない。むしろ、忍耐をもって問題解決に取り組むのである。だから教会には問題が起こることも、それを解決しようとする努力があっておかしかくはない。たとえまだ神様を知らない人が、教会に足を踏み入れ、教会の問題に気付いたとしても、そこに神様を中心にして、解決に向けて努力し、前進している姿を見るならば、その人が躓くことはないのである。しかし、そこで気がめいるような言い争いの堂々巡りをするだけで、祈りも知恵も用いられることがなければ、結果として人が躓くことは避けられない。神は、この教会の試みを祝福された。

8節からはステパノ個人に焦点が合わせられていく。ステパノは、初め執事として選ばれたのであるが、さらに宣教者として賜物が与えられ用いられたことがわかる。ステパノということばは、ギリシャ語のステパノスに由来する。それは冠を意味する。ギリシャの文化では、勝利のしるしとして与えられる冠であり、奉仕あるいは、個人的な価値を認める公的にも栄誉あるものであった。

ルカは、ステパノが「恵みと力に満ちた」人であるとしている。彼の生活のあらゆる面からキリストの恵みがあふれ出ていた。彼は解放された人だったのである。防衛的であったり、自己正当化しようとしたり、競争心をあらわにすることはなかった。彼の性格特性をよくあらわすものは、恵み深さであった。彼にはイエスの性質が現わされていた。その結果、彼には聖霊がよく働いたのである。

またステパノは「すばらしい不思議なわざとしるし」を行っていた。このしるしを通して、神は、ステパノをご自身の特別なメッセンジャーとして用いられていたことがわかる。こうした人物を誰もが受け入れ尊敬したであろうことは容易に想像される。しかしまた、誰もが歓迎したわけでもなかった。

ステパノに対する敵対は、ユダヤ人の会堂から起こった。リベルテンは、「自由にされた者」を意味する。BC63年にポンペイウスによって捕虜とされ、ローマに強制移住させられ、後に解放されたユダヤ人を指している。彼らはエルサレムに自分たちの会堂を建て、リベルテンと呼んだ。彼らはステパノと同じで、いわゆる離散ユダヤ人である。おそらく、パウロもその反対に加わった一人であったのではないかと考えられている。実際パウロはタルソ、つまりキリキヤの出身であった。ここで立ちあがったと記されている、クレネ人、アレキサンドリヤ人、キリキヤやアジヤから来た人々の一人だったのだろう。彼らはステパノの説教を阻止し、議論をふっかけてきた。しかし誰もステパノに議論で打ち勝つことのできる者はいなかった。彼らは議論に敗れると、人々をそそのかし偽りの証人をたてていく。「そそのかし」と訳されたことばは、ヒュポバロー、お金や、助言によって人を動かす意味がある。ステパノを落とし入れるために、ステパノに反対する人たちは、お金を動かしたのだろう。イエスが銀30枚で取引されたように、彼らはまさにイエスと同じ事をステパノにもしていく。ステパノはまさにキリストの苦しみを分かち合うことになる(ピリピ3:10)。

パウロもペテロも「キリストの苦しみにあずかる」と語る。ステパノのそれはキリストに対する迫害と同じ迫害に耐えることにあったのだが、私たちそれぞれに、キリストの十字架を負うことがあるものだろう。クリスチャンの人生はストイックなものでもないだろうが、キリストの苦しみにあずかる部分がある。それは、厳しい瀬戸際に立たされる場合もあろうが、実際には神にある平安を体験する時でもある(15節)。神のみが与えられる平安があることを、私たちも覚えたいものである(聖歌488)。

 

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